「柔道整復師はやめたほうがいい」「やめとけ」と検索されたあなたへ。結論からお伝えすると、この言葉が出てくる理由は、個人の努力不足でも、根性の問題でもありません。制度と需要のあいだにある構造的なずれから生まれています。ずれの正体がわかれば、進むか避けるかを自分で判断できます。
私は柔道整復師の免許を取り、整骨院で働きました。その後、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の免許を取り、カイロプラクティックの課程に進み、いまはオステオパシーの課程で学んでいます。臨床は十二年になります。
この記事は、柔道整復師という資格を否定するために書くものではありません。私自身が柔道整復師です。ただ、私が資格を取ったときに知っておきたかったことを、そのまま書きます。
患者さん百人のうち、けがで来た人は二、三人だった
私が勤めていた整骨院には、常時百人ほどの患者さんがいらっしゃいました。そのうち、けがで来られた方は二人か三人です。
残りの方は、慢性的な肩こり、腰痛、股関節の痛み、肩関節や膝関節の痛み。どれも数か月から数年にわたるお悩みでした。
学校で三年間習ってきたことと、実際の現場は、かけ離れていました。これが最初のずれです。
もちろん、これは私が勤めた一つの施術所での話です。地域や施設によって割合は変わります。ただ、少なくとも接骨院への就職を考えている方は、このずれがあるかどうかを見学のときに確かめておいたほうがいいと思います。
接骨院・整骨院は、コンビニと同じくらいある
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、柔道整復の施術所は2024年(令和6年)末時点で全国に50,924か所あります。コンビニエンスストアは大手三社の合計でおよそ五万二千店(2025年9月時点・各社公表値の集計)ですから、ほぼ同じくらいの数です。
ただ、本当に見ていただきたいのは総数ではなく、その増え方です。
| 各年末 | 柔道整復の施術所 | 就業柔道整復師 |
|---|---|---|
| 2014年 | 45,572か所 | 63,873人 |
| 2018年 | 50,077か所 | 73,017人 |
| 2022年 | 50,916か所 | 77,632人 |
| 2024年 | 50,924か所(2年で+8) | 78,666人(2年で+1,034) |
出典:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」表5・表6(PDF)
ここが要点
直近の二年間で、施術所は八か所しか増えていません(増加率0.0パーセント)。一方で柔道整復師は千三十四人増えています。十年間で見ても、施術所が約12パーセント増なのに対し、柔道整復師は約23パーセント増。施術所の数はほぼ止まる一方で、施術者は増え続けている——統計はそう示しています。これだけで将来を断じることはできませんが、就職先を考えるときの前提としては知っておいて損はありません。
そしてこれだけの数の施術所に、けがをした方だけが一日三十人ずつ来院するとしたら、日本中で毎日どれほどの人がけがをしていることになるでしょうか。数字を並べてみると、けがの方だけで経営が成り立つと考えるのは難しそうだということが見えてきます。
「やめとけ」と言われる最大の理由は、保険の壁にある
柔道整復師の施術で健康保険(療養費)の対象になるのは、外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷に限られます。日常の疲れからくる肩こりや、長く続く腰痛は対象外です。
さらに、法律そのものが範囲を絞っています。柔道整復師法(e-Gov法令検索)にはこう書かれています。
柔道整復師法
第十六条(外科手術、薬品投与等の禁止)
柔道整復師は、外科手術を行ない、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。
第十七条(施術の制限)
柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。
手術も投薬もできず、骨折と脱臼にいたっては医師の同意がなければ患部に触れられない(応急手当を除く)。扱える範囲は、もともと狭く設計されています。
ここが要点
けがの人が毎日たくさん来るという前提でこの資格は設計されていますが、実際に施術所へ来られる方の多くは、けが以外のお悩みを抱えています。
だから自費に出る。そこは資格の有無を問われない場所
けが以外の方を施術するには、保険を使わない自費の施術を行うことになります。ここで二つ目のずれが起きます。
自費の施術は、法的な資格制度がない領域でも行えます。整体やリラクゼーションと呼ばれるものがそれにあたります。
つまり、三年間学んで国家試験に合格した人が、資格を持たない人と同じ土俵に立つことになります。保険が使えない以上、料金も一般的な水準に収まることが多くなります。
学校で整体は習わない
柔道整復師の養成課程は、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷を中心に組まれています。整体の授業はほとんどありません。
ですから、自費の施術については、医学的な知識はあっても技術は一から身につけることになります。
私の場合はこうでした。柔道整復師として就職した整骨院が、カイロプラクティックを行うところだったのです。学校では一度も習っていません。その会社で実務を積み、技術を磨き、知識を身につけました。
ありがたい経験でしたが、同時に「三年間学んだことを活かせていない」というもやもやがずっと残りました。そして、柔道整復師として働くよりも、カイロプラクティックの担い手として働くほうが人の役に立てると感じ、あらためて学校に通うことにしました。
「食えない」と言われる働き方——私の勤務時代の数字
私が勤めていた頃の条件です。ひとつの例として読んでください。
| 項目 | 実際 |
|---|---|
| 勤務 | 週六日・休みは週一日 |
| 月給 | 二十一万円ほど(手取り十八万円ほど) |
| 拘束時間 | 朝八時半から夜九時半 |
| 休日 | 日曜も研修が入り、実質休めない日があった |
| 研修 | 当初は勤務終了後。労働時間に含まれなかった |
片付けが終わるのが八時半。そこから一時間半ほど研修をして、終わるのが十時前後。家に着くのが十一時ごろで、翌朝は七時半に家を出る。そういう毎日でした。
近年は業界全体で労働基準に沿った改善が進んでいます。ただ、その分の原資は自費の売上で確保することになり、料金が上がりやすい構造があります。
「柔道整復師はオワコン」なのか——業界に起きていること
東京商工リサーチの集計(「マッサージ業界」の倒産増加)によると、接骨院・鍼灸院を含む「マッサージ業」の倒産は、二〇二六年一月から七月で六十八件。前年同期比七・九パーセント増で、同じ期間としては過去十五年で最も多い水準です。
さらに二〇二五年度は年間百八件で、統計をさかのぼれる三十年で最多でした(同社調べ)。同期間の「人手不足」による倒産は七件(前年同期はゼロ)で、こちらも過去最多とされています。
あわせて、料金の前払いをめぐる問題も起きています。全国に百三十店舗以上を展開していた某接骨院グループは二〇二〇年に破産し、負債は四十四億円規模と報じられました。全国におよそ二百店舗を持っていた某美容整体チェーンも、二〇二五年に全店舗を閉鎖しています。個別の社名はここでは伏せますが、いずれも報道や公的機関の相談事例として公表されているものです(国民生活センター/東京都「整体院の回数券購入後の解約はできない?!」)。
気をつけたいこと
回数券のように料金を先に受け取る仕組みは、既存のお客さまが消化を始めた時点で、施術を提供する費用だけが出ていきます。新しい前払いが減ると資金繰りが逆回転します。これは個々の会社の問題というより、仕組みそのものが持つ性質です。国民生活センターや各自治体も、解約や未消化をめぐる相談として注意を呼びかけています。
患者さんから受けた、二つの質問
現場にいた頃、こう尋ねられることが何度もありました。
実際にいただいた質問
- 骨折も脱臼も打撲も挫傷も捻挫もしていないのに保険を使っていますが、これはいいのですか
- 保険の請求書に名前を書きますが、毎月まだ何も書かれていないところにサインをしています。実際にいくら請求されているのか、こちらではわかりません
正直な質問だと思います。当時の現場では、急性とは言いにくい肩こりや腰痛、膝の痛みについても「亜急性」という言い方で整理されることがありました。
現在の支給基準は、はっきりしています。厚生労働省の通知を各自治体がまとめた手引き(静岡県「柔道整復師の施術に係る療養費の手引き」令和6年10月版・PDF)には、こう書かれています。
療養費の支給基準
支給対象:外傷性が明らかな骨折・脱臼(医師の同意が必要/応急手当には不要)、打撲・挫傷(医師の同意は不要)
※外傷性とは、関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すものであり、いずれの負傷も、身体の組織の損傷の状態が慢性に至っていないものであること。
支給対象外:内科的原因による疾患/単なる肩こり、筋肉疲労
「単なる肩こり、筋肉疲労」は、支給対象外だと国の基準に明記されています。それでも、目の前の負傷が「慢性に至っているかどうか」を判断するのは施術者です。線引きの一部は、いまも現場に委ねられています。
保険で扱えるのは急性のけがだけ。しかし通ってこられる方の多くは慢性のお悩み。このギャップが、患者さんのもやもやとしても、働く側の後ろめたさとしても残ります。
柔道整復師の将来性は、分野を絞れば見えてくる
ここまで厳しい話が続きましたが、三年間の学びが十分に活きる場所はあります。
柔道整復師の学びが直接活きる場
- スポーツの現場
- 山岳救助など、けがをした方を支える場面
- スポーツトレーナー
- 病院でのリハビリテーション業務、医師のサポート
いずれも、急性のけがに向き合う仕事です。学校で学んだことがそのまま活きます。この方向に進みたいと考えているなら、柔道整復師は十分に選ぶ価値のある資格だと私は思っています。
一方で、接骨院や鍼灸院に勤めたいと考えている方は、ここまで書いてきたずれを踏まえたうえで選んでいただきたいと思います。
無資格で四十年、五十年の一流の方はいる
誤解のないように書いておきます。資格がなくても、素晴らしい施術をされる方はいます。
私は実際にお会いしたことがあります。資格を持たずに四十年、五十年と施術を続けてこられた方です。それだけの年月があれば知識も経験も積み重なっています。私が見た範囲では、卒業したての有資格者がすぐに並べる相手ではありませんでした。
ただ、ひとつだけ違いがあります。公的に証明されるものがないということです。技術がどれほど確かでも、それを外から確かめる手立てがない。あるに越したことはない、というのが正直なところです。
いま、医療系の国家資格を持って整体を行うという流れが広がっています。人の体に触れる仕事です。国家資格をひとつでも持っておくことは、「私はきちんと学びました」と胸を張って言える環境をつくることにほかなりません。それは自分の成長にも、来てくださる方の利益にもつながると考えています。
私がすべての学校に通った理由
臨床の現場から
施術を続けるうちに、大事なのは自分が何をやっているのかを、きちんと証明できることだと思うようになりました。ひとつの資格を持って別の施術を行うのも十分にいいのです。ただ、学校に通って学ぶということは、「しっかり学んだ」という証明になります。これは何ものにも代えられません。
やりたいことがひとつに決まっているなら、その資格を取ればいい。私の場合は、すべてをきちんとやりたいという気持ちが強かった。だからすべての学校に通わせてもらい、ちゃんと学んだ。それだけのことです。
— 山﨑 駿
ただ、これは私の性分の話です。すべてを取る必要は、まったくありません。やりたい分野がひとつ決まっているなら、その一つを深く学ぶだけで十分です。三年間で学んだことは、進む場所さえ選べば、それだけで大きな力になります。
この記事のまとめ
要点
- 「やめたほうがいい」と言われる理由は、努力の問題ではなく制度と需要のずれにある
- 保険で扱えるのは急性のけがのみ。しかし来られる方の多くは慢性のお悩み
- 自費に出れば、資格の有無を問われない領域で勝負することになる
- 学校で整体は習わないため、自費の技術はゼロからのスタートになる
- 将来性は分野で決まる——スポーツ、救助、トレーナー、病院リハビリなら学びはそのまま活きる
- 大切なのは資格の数ではなく、自分が何をしているかを証明できること
これから柔道整復師を目指す方には、ぜひ一度立ち止まって考えてみてほしいと思います。そのうえで進むと決めたなら、どの分野で活かすのかを先に決め、それが身につく場所を選ぶこと。ここまで決められれば、この資格は強い武器になります。
参考文献
- 厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費」療養費の改定等について
- 静岡県健康福祉部「柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)令和6年10月版」=療養費の支給基準(国の通知を保険者向けに整理したもの)
- 柔道整復師法(e-Gov法令検索・昭和四十五年法律第十九号)第十六条・第十七条
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」表5・表6=就業柔道整復師数/柔道整復の施術所数
- コンビニエンスストア店舗数=各社公表値の集計(2025年9月時点)/一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計調査」
- 東京商工リサーチ「『マッサージ業界』の倒産増加 ~ 1-7月は過去最多、低価格台頭と施術者確保 ~」
- 東京商工リサーチ「『マッサージ業』の倒産が過去30年で最多の108件」
- 国民生活センター「消費者トラブルFAQ 健康関連サービス」
- 東京都「整体院の回数券購入後の解約はできない?!」
- 埼玉県「整体など…法的な資格制度のない「手技」による施術・契約トラブルに注意しましょう」
情報確認日:2026年8月31日。制度や統計は改定・更新されます。最新の内容は各出典をご確認ください。
この記事を書いた人
山﨑 駿(やまざき しゅん)
Doctor of Chiropractic(D.C./専門職学位・Tokyo College of Chiropractic・CCEA認可課程)/はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師(国家資格)/登録カイロプラクター(日本カイロプラクティック登録機構〈JCR〉登録番号0963)/オステオパシー(D.O.課程)専攻中。
施術者として臨床12年、のべ数万人のからだに向き合ってきました。詳しくは運営者プロフィールを、参照している公的機関は参考にしている機関・情報源をご覧ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の進路相談や医学的助言に代わるものではありません。勤務条件は施術所ごとに大きく異なります。記載内容に事実の誤りがある場合は、お問い合わせよりご指摘ください。
