結論から言う。「鍼灸師はやめとけ」と言われる理由は、私自身も実際に言われてきたのでよくわかる。でも今の時代、私はむしろ鍼灸師のほうが「食べていける」資格になっていると思っている。
理由は精神論ではない。柔道整復師(整骨院・接骨院で骨折や捻挫の施術にあたる国家資格)が保険を前提にした構造であるのに対して、鍼灸は自費診療(健康保険を使わず全額自己負担で受ける施術)で成り立つ構造になっている。そしてその構造は、業界の慣習ではなく、通院の頻度という単純な理由から生まれている。この記事では、はり師・きゅう師という資格の法律上の立ち位置、就業者数の統計、そして12年の臨床で見てきた現実をもとに、「やめとけ」と言われる理由を認めたうえで、それでも今この資格を選ぶ価値がどこにあるかを整理する。
「鍼灸師はやめとけ」と、実際に私も言われてきた
正直に書く。私自身、鍼灸師を目指していた頃、周りから「食べていけないよ」「食べていけるのはほんの一握りだよ」とはっきり言われた経験がある。これは決して大げさな話ではなく、はり師・きゅう師の資格を取ろうとする人なら、一度は誰かに言われたことがあるのではないだろうか。
この「食べていけない」という感覚には根拠がある。整骨院や鍼灸院に勤務する形でスタートすると、残業や給与の水準は、専門職の割に決して高くない、というのが現場の実感だ。これは鍼灸師に限った話ではなく、柔道整復師(骨折・脱臼・打撲・捻挫といった急性のケガに対応する国家資格)もほぼ同じ待遇構造にある。この点は以前、柔道整復師はやめたほうがいい?現場12年で見た実際 で詳しく書いたので、あわせて読んでもらえればと思う。
つまり「やめとけ」と言われる背景にあるのは、鍼灸という技術そのものの価値が低いからではなく、勤務先の給与テーブルに収入が縛られやすいという、雇われる働き方に共通する構造の問題だ。ここをまず認めたうえで、次に進みたい。
では、鍼灸師の年収はいくらなのか
ここで多くの人が知りたいのは「結局いくらもらえるのか」だと思う。検索すれば「鍼灸師の平均年収は約◯◯万円」という数字がいくつも出てくる。ただ、その数字がどこから来ているのかを確かめておきたい。
国の統計で職業を分類している「日本標準職業分類」を見ると、はり師・きゅう師は小分類152「あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師,柔道整復師」というひとつの区分にまとめられている(大分類B 専門的・技術的職業従事者/中分類15 その他の保健医療従事者)。この区分には、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師に加えて、整骨師・接骨師・指圧師も含まれている。
つまり、公的な統計から「はり師・きゅう師だけの平均年収」を取り出すことは、そもそもできない。世の中で「鍼灸師の平均年収」として語られている数字の多くは、柔道整復師などと同じ箱に入れて集計されたものだと考えたほうがいい。
だからこの記事では、あえて具体的な平均年収の数字を出さない。出所をたどれない数字を並べても、進路を決めようとしている人の役には立たないからだ。
もうひとつ付け加えると、私が「鍼灸師と柔道整復師の待遇はほぼ同じくらい」と感じてきたことは、統計がそもそも両者を分けていないという事実とも符合する。そのうえで、勤務するのか、自費で開業するのかによって収入の幅は大きく変わる。平均値ひとつで語れる職業ではない、というのが正直なところだ。「では実際、勤務時代の手取りはいくらだったのか」「開業してから何が変わったのか」については、この資格に限らず治療家全体の話として、別の記事で数字を出しながら書く予定でいる。
それでも今、鍼灸師のほうが可能性があると考える理由
昔は柔道整復師の保険請求に対するチェックが今ほど厳しくなく、「柔整のほうが稼げる」と言われていた時代があった。しかし今は状況が変わってきている。これは私の体感だけの話ではなく、厚生労働省が公表している療養費(健康保険から施術費の一部が払い戻される仕組み)の推移にはっきり表れている。
| 区分(億円) | 平成25年度 | 令和元年度 | 令和3年度 | 平成25→令和3年度 |
|---|---|---|---|---|
| 国民医療費 | 400,610 | 443,895 | 450,359 | +12.4% |
| 柔道整復 | 3,855 | 3,178 | 2,867 | ▲25.6% |
| はり・きゅう | 365 | 437 | 442 | +21.1% |
| マッサージ | 637 | 750 | 655 | +2.8% |
出典:厚生労働省「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、治療用装具に係る療養費の推移(推計)」(保険局調査課とりまとめの推計。令和3年度が最新の公表値)
柔道整復の療養費は、この9年のうち8年が対前年マイナスで、平成25年度から令和3年度にかけて約4分の1が失われている。同じ期間に国民医療費のほうは12.4%伸びているので、医療費全体が拡大するなかで柔整だけが縮んでいる、という構図になる。一方のはり・きゅうは同じ期間に21.1%増えている。
ただし、規模そのものは見誤らないでほしい。金額でいえば柔道整復2,867億円に対してはり・きゅうは442億円で、市場の大きさは柔整のほうが約6.5倍ある。「鍼灸のほうが大きい」のではなく、「向いている方向が逆」というのが正確な読み方だ。
私の実感としては、鍼灸について深く学び、プロフェッショナルな技術を提供できる鍼灸師であれば、柔道整復師よりも「食べていける」資格になり得る。ただし、これは「免許さえ取れば」という話ではない。この後で触れるように、免許はあくまで入口であって、そこから先に学び続けられるかどうかが分かれ目になる。
なぜ柔整は保険、鍼灸は自費が前提なのか
ここが、いちばん伝えたいところだ。「柔整は保険診療、鍼灸は自費診療」という違いは、業界の慣習でも、鍼灸のほうが値打ちがあるからでもない。通院しなければならない頻度が根本的に違う、という単純な理由から来ている。
柔道整復師が扱うのは骨折・脱臼・打撲・挫傷・捻挫といった急性の外傷が中心だ。急性のケガは、衛生管理の観点から毎日のようにテーピングを巻き直したり(お風呂で剥がれてしまうこともある)、包帯を一度外して患部を清潔にしてから巻き直したり、ギプスの状態を調整したりと、頻繁に通院して経過を見る必要がある。
たとえば仮に自由診療(健康保険を使わない全額自己負担の施術)で毎回5,000円だったとすると、週に3〜4日通院した場合、1週間で1万5,000〜2万円、1か月に換算するとおよそ6万円の施術費になってしまう。これでは、治療を継続すべき患者が経済的な理由で通院をやめてしまいかねない。だからこそ健康保険が使え、自己負担が3割・2割・1割になる仕組みがあることで、しっかり通院して身体を治していくことができる。
一方、鍼灸にも健康保険を使った施術(療養費という制度)はある。ただし、その条件はかなり厳しい。厚生労働省の通知によれば、療養費の支給対象となる疾病は「慢性病であって医師による適当な治療手段のないもの」とされている(昭和42年9月18日 保発第32号)。具体的に対象として挙げられているのは、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症の6つで、いずれも保険医から同意書の交付を受ける必要がある。それ以外の疾病については、個別に支給の適否が判断される。
ここは読み飛ばしてほしくないところだ。「医師による適当な治療手段のないもの」という要件がある以上、鍼灸で保険を使うには、医師の側で打つ手がない状態という前提が要ることになる。鍼灸院で保険が使いにくいのは、業界が怠けているからではなく、制度がそう設計されているからだ。
では、なぜ整骨院のほうは保険が使えるのか。 ここには「受領委任」という、日本の医療保険のなかでもかなり例外的な仕組みが関わっている。その成り立ちと、なぜ柔道整復にそれが認められたのかは、この記事に収まりきらないので別の記事で改めて掘り下げる。
それに対して、鍼灸院で日常的に扱う肩こり・腰痛・股関節や膝の慢性的な痛みといった不調は、2週間に1回、あるいは1か月に1回、6,000円程度の自費施術であれば、通院を続けるうえで大きな負担にはならない。だからこそ、自由診療(自費診療)で運営している鍼灸院が多い、というのが実情だ。
「柔整=保険」「鍼灸=自費」という区分は、業界の都合ではなく、急性のケガと慢性の不調とで、必要な通院頻度がまったく違うことの結果である。この構造を理解しておくと、鍼灸師として自費診療で経営していくことが、決して不自然な選択ではなく、むしろ扱う症状の性質に合った、理にかなった働き方だとわかるはずだ。
はり師という資格の、法律上の立ち位置
はり師・きゅう師という資格の価値を、法律の条文で確認しておきたい。根拠になるのは「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(昭和22年法律第217号、以下あはき法)だ。
あはき法第1条は、医師以外の者があん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅうを業として行うには、それぞれの免許が必要だと定めている。そして第5条は「あん摩マツサージ指圧師は、医師の同意を得た場合の外、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない」と定めている。ここで注意したいのは、この第5条の対象はあん摩マッサージ指圧師のみであり、はり師・きゅう師はこの条文の名宛人ではない、という点だ。
これは、看護師をはじめとする医療関係の資格と比べると、はり師の独自性がわかりやすい。保健師助産師看護師法第37条は「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか」、診療機械の使用や衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならないと定めている。つまり看護師は、診療機械の使用や医薬品の授与といった、衛生上の危害が生じうる行為については、原則として医師の指示がなければ行えない立場にある(療養上の世話は指示がなくても行える)。それに対してはり師は、医師の同意がなくても、自らの判断で鍼を人体に刺入する施術を行える。看護師などの医療系資格と比べたとき、これはかなり独自の立ち位置だといえる。
ただし、これは「はり師なら何でもできる」という意味ではない。あはき法第4条は、施術者(あマ指師・はり師・きゅう師のいずれも含む)に対して「外科手術を行い、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない」と明確に禁止している。つまり、はり師・きゅう師は独立した判断で施術できる範囲を持ちながら、その範囲は法律で明確に区切られている。
もうひとつ整理しておきたいのが、施術そのものの可否と、健康保険(療養費)を使う場合の手続きは別物だという点だ。前述の通り、鍼灸で療養費を使う場合には医師の同意書が必要になる。これは「医師の同意がないと鍼を打てない」という話ではなく、「保険を適用して費用の一部を払い戻してもらうには、医師の同意が要る」という保険制度側のルールである。ここを混同すると、はり師の独自性を正しく理解できなくなるので注意したい。
ただし「参入障壁は低い」というのが正直なところ
ここまで読むと、「はり師はそんなに特別な資格なら、参入障壁も高いのでは」と思うかもしれない。しかし、これは正直に否定しておきたい。免許がなければ施術はできないという意味での障壁はあるが、免許を取得する人自体は年々増えているというのが実情だ。
厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、就業しているはり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の人数は以下のように推移している。
| 資格 | 平成26年(2014) | 令和2年(2020) | 令和4年(2022) | 令和6年(2024) | 対令和4年 |
|---|---|---|---|---|---|
| はり師 | 108,537人 | 126,798人 | 131,486人 | 136,736人 | +4.0% |
| きゅう師 | 106,642人 | 124,956人 | 129,478人 | 134,730人 | +4.1% |
| あん摩マッサージ指圧師 | 113,215人 | 118,103人 | 118,913人 | 119,703人 | +0.7% |
| 柔道整復師 | 63,873人 | 75,786人 | 77,632人 | 78,666人 | +1.3% |
出典:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(各年末現在)
はり師は10年間で約1.26倍に増えている。「免許を持っている人」の数だけで見れば、決して希少な存在ではなくなってきているということだ。だからこそ大事なのは、免許を取ったあとに何をするかだ。免許はスタートラインであって、そこから技術を磨き、学び続けた人だけが、実際に生活していけるだけの信頼を患者から得ている、というのが12年間現場を見てきた実感になる。
鍼灸ならではの難しさと、鍼でしか出せなかった手応え
鍼灸が「習得しやすい技術」かというと、まったくそうではない。柔道整復の手技とは違い、鍼灸は非常に繊細で難しい。経穴(いわゆるツボ)の位置をすべて覚えなければならず、気血(東洋医学における「気」と「血」のめぐり)の流れや筋肉の走行など、覚えるべき知識量は多岐にわたる。鍼灸には2000年以上の歴史があり、そこで積み上げられてきた理論を深く学ぶには相応の根気が要る。本気で向き合わないと習得できない技術だと思う。
私自身の臨床の中で、印象に残っている経験がある。片麻痺(脳血管障害などで体の片側に麻痺が出る状態)の患者様の痙縮(筋肉が異常に緊張してこわばった状態)に対して鍼を用いた際、施術直後に筋の緊張がやわらぐという手応えを得たことが何度もあった。手による外部からの刺激では届きにくい深い部位に対して、鍼は自分の指先の延長のように、ダイレクトかつ正確にアプローチできる、というのが私の感覚だ。
ただし、これはあくまで私個人の臨床経験であり、鍼灸に一般的な治療効果があると保証するものではない。片麻痺の痙縮に対する鍼の作用が、確立された標準治療として位置づけられているわけではない点は、はっきり書いておきたい。気になる症状がある方は、まず医療機関に相談したうえで、選択肢のひとつとして検討してほしい。
なお、美容の施術に携わる鍼灸師もいれば、スポーツの現場でサポートする鍼灸師もいる。活躍の場が多岐にわたっているのも、鍼灸という資格の特徴のひとつだ。
開業のハードルを、施術所の数から見る
「自費診療で開業すれば無限の可能性がある」と言うのは簡単だが、開業のハードルが低いわけではない。よく「コンビニと同じくらいの数の整骨院・鍼灸院がある」と言われるが、これは統計で見てもあながち大げさな表現ではない。
厚生労働省の同じ統計(令和6年衛生行政報告例)によると、施術所の数は以下の通りだ。
| 施術所の種類 | 平成26年 | 令和2年 | 令和4年 | 令和6年(2024) | 対令和4年 |
|---|---|---|---|---|---|
| はり及びきゅうを行う施術所 | 25,445か所 | 32,103か所 | 33,890か所 | 35,494か所 | +4.7% |
| あマ指、はり並びにきゅうを行う施術所 | 37,682か所 | 38,309か所 | 38,374か所 | 38,595か所 | +0.6% |
| あん摩、マッサージ及び指圧を行う施術所 | 19,271か所 | 18,342か所 | 18,017か所 | 17,531か所 | △2.7% |
| 柔道整復の施術所 | 45,572か所 | 50,364か所 | 50,916か所 | 50,924か所 | +0.0%(2年で+8か所) |
出典:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(各年末現在)
この表は、総数よりも増え方に注目して見てほしい。4つの区分のうち、しっかり伸びているのははり及びきゅうを行う施術所(+4.7%)だけだ。
とくに柔道整復の施術所の「+8か所」は、読み方を間違えないでほしい。これは純増、つまり新しく開業した数から廃業した数を差し引いた結果だ。2年間に新規開業が8軒しかなかった、という意味ではまったくない。実際には、新しく開いた院と、たたんだ院が、ほぼ同じ数だけあったということになる。増えていないのではなく、入れ替わっている。この数字が示しているのは、柔道整復の施術所がすでに飽和していて、開業した分だけ同じ数が退場している市場だ、という現実だ。
あん摩・マッサージ・指圧を行う施術所にいたっては2.7%減っており、こちらは純減している。
そのうえで、規模を見てみる。柔道整復の施術所は50,924か所ある。日本フランチャイズチェーン協会によると、同協会の正会員7社の全店舗数は約55,855店(2025年4月度)というから、柔整の施術所だけでもコンビニに迫る規模だとわかる。はり・きゅうを行う施術所も35,494か所と、決して少なくない。※施術所のカテゴリには重複する概念があるため、これらを単純に合算した総数として扱うのは避けるが、それぞれの数字を見るだけでも、開業して周囲と並んでいく道が簡単ではないことは伝わるはずだ。
コンビニと同等規模の競合がいる状態での開業は、確かにハードルが高い。ただ、しっかりとした技術と知識を持ち、プロフェッショナルな施術を提供できれば、それほど高すぎる壁でもない、というのが私の実感だ。実際に一人で生活していく分には困らない程度にはやっていける。ハードルの高さは、突き詰めれば自分次第だと思う。
「鍼が怖い」という壁と、武器を増やすという発想
鍼灸師として臨床を続けていると、一定数「鍼が怖い」という患者様に出会う。鍼灸しか提供できない場合、この壁が受療(施術を受けてもらうこと)につながらない一因になることがある。ここで、あん摩マッサージ指圧師の資格もあわせて持っていれば、手技によるアプローチで対応することができる。
武器がひとつよりふたつある方が、対応できる幅は確実に広がる。この発想が、次の結論につながっている。
結論:同じ3年通うなら、3つの国家資格が取れる学校へ
はり師・きゅう師の資格を目指す場合、同じ養成校でも、あん摩マッサージ指圧師の資格までまとめて取得できる学校とそうでない学校がある。もし別々に資格を取ろうとすると、養成期間はそれぞれ3年ずつで合計6年かかってしまうが、3資格をまとめて取れる学校であれば、3年間で済む。
「3年で3資格分の勉強なんて、負荷が大きすぎるのでは」と思うかもしれないが、実際にはそこまで過度な負担ではない。解剖学や生理学といった基礎医学の科目は、資格ごとに重複して履修する必要がなく、同じ学校であれば鍼灸師のカリキュラムに、あん摩マッサージ指圧師の専門科目が上乗せされるイメージになる。増える授業は週に3〜4時間程度というのが実感で、両方の資格取得を最初から視野に入れているなら、大きな負担にはならないはずだ。
私自身、はり師・きゅう師の資格を取ろうと学校を調べていた段階で、3つの資格をまとめて取れる学校の存在に気づけたのは幸運だった。もし入学後に知っていたら、卒業後にもう一度3年間通うことになり、大きなタイムロスになっていたと思う。
同じ3年間を学校に通うのであれば、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師のすべてを取得できる学校を選んだほうが、選択肢の幅は確実に広がる。あん摩マッサージ指圧師については、別の記事で改めて詳しく取り上げる予定だ。
そのとき必ず書きたいことが、ひとつある。先ほどの統計で、あん摩マッサージ指圧師だけが伸びていなかったことを覚えているだろうか。就業者数は2年で+0.7%とほぼ横ばい、施術所にいたっては2.7%減っていた。はり師・きゅう師が+4%台で増え続けているのに、である。同じ3年間の課程で一緒に取れる資格なのに、なぜここまで差がつくのか。これには、あん摩マッサージ指圧師という資格だけが背負っている、法律上の事情がある。 その話は、次の記事に譲りたい。
免許はあくまで入口にすぎない。年々免許を取得する人が増えている以上、そこから先、自分がどれだけ技術を磨き、学び続けられるかが、この資格で食べていけるかどうかの分かれ目になる。「やめとけ」と言われる現実を認めたうえで、それでも私はこの資格を、今の時代にこそ価値がある資格だと思っている。
よくある質問(FAQ)
Q. 鍼灸師の給料は、柔道整復師と同じくらいですか?
整骨院・鍼灸院に勤務するかたちでは、待遇の水準は柔道整復師とほぼ近いというのが現場の実感です。ただし鍼灸は自費診療を軸にした働き方が広がりやすく、技術を磨いた先の伸びしろは柔整とは違う形になり得ます。
Q. 鍼灸師になるには何年かかりますか?
はり師・きゅう師の養成課程は3年制が中心です。あん摩マッサージ指圧師もあわせて取得できる学校を選べば、3年間で3つの国家資格を目指すことができます。
Q. はり・きゅうにも健康保険は使えますか?
療養費という制度で保険を使える場合があります。厚生労働省の通知では、対象となるのは「慢性病であって医師による適当な治療手段のないもの」とされ、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症の6つが挙げられています。いずれも保険医の同意書が必要です。この要件があるため、日常的な肩こり・腰痛のケアは自費診療で行っている鍼灸院が多いのが実情です。
Q. 鍼灸師の平均年収はいくらですか?
実は、公的な統計から「はり師・きゅう師だけの平均年収」を取り出すことはできません。日本標準職業分類では、はり師・きゅう師は柔道整復師などと同じ小分類152にまとめられているためです。世に出ている「鍼灸師の平均年収」は、柔道整復師等を含めて集計された数字である可能性が高い点に注意してください。
Q. 鍼は痛いですか、怖くないですか?
感じ方には個人差があります。「鍼が怖い」と感じる方も一定数いらっしゃるため、あん摩マッサージ指圧師の資格をあわせて持ち、手技によるアプローチも提供できる鍼灸師も少なくありません。
本記事の位置づけ
本記事は、はり師・きゅう師(鍼灸師)という資格・制度について、一般的な情報を整理する目的で作成したものであり、特定の症状の診断・治療を目的としたものではありません。
本文中の臨床エピソードは、執筆者個人の臨床経験に基づくものであり、鍼灸の効果を保証するものではありません。片麻痺の痙縮など具体的な症状に対する鍼の作用は、標準治療として確立されているわけではない点にご留意ください。
制度・統計は執筆時点(2026年9月2日確認)の公表情報に基づきます。法令・統計・養成校のカリキュラムは改定されることがあるため、進路選択など重要な判断をする際は、必ず最新の一次情報(厚生労働省・各養成校等)をご確認ください。
体調に関するお悩みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
参考文献・出典
- あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)|e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000217
- 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)|e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000203
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/
- 厚生労働省「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、治療用装具に係る療養費の推移(推計)」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/111116_01.pdf
- 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の支給の留意事項等について(改正反映版)」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/180621-21.pdf
- 総務省「日本標準職業分類」小分類152 あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師,柔道整復師(政府統計の総合窓口 e-Stat):https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/20/02/152
- 日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計調査月報」:https://www.jfa-fc.or.jp/particle/29.html
執筆者
山﨑駿(やまざき しゅん) はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師(すべて国家資格)/Doctor of Chiropractic(D.C.、Tokyo College of Chiropractic・CCEA認可課程)/オステオパシー(D.O.課程)専攻中。臨床歴12年、のべ数万人の身体に向き合ってきた施術者です。
【学歴】日本工学院八王子専門学校 柔道整復科 卒業/東京呉竹医療専門学校 鍼灸あん摩マッサージ指圧科 卒業/東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧RMITカイロプラクティック学科日本校)卒業/日本福祉大学 通信教育部 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科 卒業/スティル・ジャパン・アカデミー(オステオパシー専門教育)在学中。
保有資格の詳細は運営者プロフィールをご覧ください。
