サルコペニアとは、筋肉の量が減り、そこに筋力の低下や身体機能の低下が加わった状態を指す言葉です。高齢の人に多いとされますが、高齢の人だけに起こるとは書かれていません。そして、この状態を見分けるための国際的な基準は、アジアと欧州に二つあります。アジア側には2025年の更新も出ていて、この記事が線を並べるのは、2019年版と欧州版です。
ただし、二つはほとんど揃っていて、線の位置が違うのは二箇所だけです。そのうえで、同じ「椅子から5回立ち上がる」という検査が、一方では筋力の欄に、もう一方では身体機能の欄に置かれています。私はその同じ動作を、測るためには使っていません。
この記事は、読んだ人が自分や家族を判定するためのものではありません。サルコペニアかどうかを判断するのは医療機関です。4つの国家資格を持ち、臨床12年、訪問で高齢の方を継続して診てきた立場から、二つの原典を開いて、どこが揃っていて、どこが違うのかを確かめます。
サルコペニアとは、何を指す言葉か
アジア・サルコペニア・ワーキンググループ(AWGS)が2019年に出した合意文書は、2014年の定義をそのまま引き継いでいます。その定義は、加齢に伴う筋肉量の減少に、筋力低下および/または身体機能低下が加わったものです。「および/または」は、原文の `and/or` をそのまま訳したものです。
ヨーロッパ側の合意文書(EWGSOP2、2019年)は、位置づけのほうを強く書いています。EWGSOP2 は、サルコペニアを筋肉の病気(原文は `a muscle disease (muscle failure)`)として述べ、さらに、サルコペニアは現在、筋肉の病気として正式に認められており、一部の国ではケアの請求に使える ICD-10-MC の診断コードがあると書いています。「一部の国では」は原文の `in some countries` です。日本の制度のうえでどう扱われているかについては、私は確認していないので、この記事では書きません。
そして、EWGSOP2 は言い切っていません。原文はこうです。
sarcopenia is common among adults of older age but can also occur earlier in life
サルコペニアは高齢の成人に多いが、人生のより早い時期に起こることもある。「起こることもある」は原文の `can also occur` で、起こりうる、という留保のついた書き方です。人生の早い時期にどれくらい起こるのかは、この一文では述べられていません。
年齢については、アジア側にも動きがあります。AWGS の2025年の更新は、`expanding sarcopenia diagnosis to middle-aged adults (50‒64 years) with validated diagnostic thresholds`=妥当性を検証した閾値とともに、診断の対象を50〜64歳の中年成人へ広げると書いています。ただし、この二つは同じことを述べたものではありません。 EWGSOP2 のほうは留保のついた一般的な記述で、AWGS 2025 のほうは年齢を区切った診断の拡大です。閾値の数値は、抄録にはありません。
この記事が扱うのは二つだけです。基準がどうなっているか。そして、繰り返し会う側から何が見えるか。サルコペニアかどうかを判断するのは医療機関であり、私はしません。治し方、薬、栄養、他の概念との関係は扱いません。原典から逐語を取れなかったことは、書きません。
別の記事で、制度について、こう書きました。
だが、制度が無いことは、判断材料が無いことと同じではない。世界には物差しがあり、それは公開されている。
その物差しを実際に開いて、中を見るのがこの記事です(→ オステオパシーとは?なぜ「怪しい」と言われるのか)。ただ、あの記事で書いたのは、同じ一語が、国をまたぐと三つの違うものを指しているという話でした。今回はそうではありません。指しているものは同じで、違うのは線の位置と、同じ検査が置かれている欄だけです。AWGS 2019 自身が、2014年の定義を `retains`(そのまま引き継ぐ)と書いています。
基準は二つある
二つは、同じ三つのものを見ている
一つは AWGS 2019(アジア・サルコペニア・ワーキンググループ/2020年の医学誌に掲載)です。著者には日本の研究者が多数加わっています。もう一つが EWGSOP2(ヨーロッパのワーキンググループ/2019年)です。AWGS には2025年の更新があり、そちらはこのあと触れます。このあとの表に並べる線は、2019年版と EWGSOP2 のものです。
二つは、同じ三つのものを見ています。筋力・筋肉の量(と質)・身体機能です。
EWGSOP2 は、この三つの使い分けを明示しています。筋力の低下をサルコペニアの主な特徴として重く見る。筋肉の量と質の低下を、サルコペニアの確定のために使う。身体機能の低下は、重症のサルコペニアを示すものとする。原文の `low muscle quantity and quality` は「量と質」で、質のほうも入っています。
AWGS 2019 の側は、筋力と筋肉の量は、どちらも確定診断に欠かせない(`both still considered fundamental to a definitive clinical diagnosis`)としています。
そして、組み立てを示す語が、それぞれにあります。似ていますが、定義が違います。
| 語 | どちらの基準 | 定義(原典の述べ方) | 本記事の訳 |
|---|---|---|---|
| probable sarcopenia | EWGSOP2 | 筋力の低下が見つかった時点 | サルコペニアの可能性が高い |
| possible sarcopenia | AWGS 2019 | 筋力の低下、または身体機能の低下のみ | サルコペニアの可能性がある |
日本語にすると、どちらも「疑い」と訳せてしまいます。ですが、片方は筋力だけで決まり、もう片方は筋力または身体機能のどちらかで決まります。同じ段階の話ではありません。
EWGSOP2 の側は、この先も分かれています。筋肉の量または質の低下が確認されると、サルコペニアは確定。そして、筋力の低下・筋肉の量または質の低下・身体機能の低下の三つがすべて検出されると、重症のサルコペニアとされます。
そして EWGSOP2 は、この並びを一本の順路として示しています。原語は `Find-Assess-Confirm-Severity`——見つける・評価する・確定する・重症度を見る。そしてそれを、`for use across clinical practices and in research studies`(臨床の現場と研究の両方で使うために)推奨すると書いています。最初の段に置かれているのは、`Find`=見つけることです。
線の位置が違うのは、二箇所だけ
二つの基準が示している線を、同じ欄のものだけ並べます。
| 何を見ているか | EWGSOP2(欧州) | AWGS 2019(アジア) |
|---|---|---|
| 筋力:握力(男/女) | 27kg未満/16kg未満 | 28kg未満/18kg未満 |
| 身体機能:歩行速度 | 0.8m/s以下 | 1.0m/s未満 |
| 筋肉の量:身長で補正した値(男/女) | 7.0/5.5 kg/m²未満 | 7.0/5.4 kg/m²未満 |
| 入口のふるい分け | SARC-F | ふくらはぎの周囲の長さ(男34cm未満/女33cm未満)/SARC-F(4点以上)/SARC-CalF(11点以上) |
この表に、三つ注をつけます。
1. 筋肉の量の行について。 それぞれの原典での示し方が、少し違います。AWGS 2019 側は測定方法を指定しており(二重エネルギーX線吸収測定法)、EWGSOP2 側は量の計算のしかたを指定しています(原典の表記は `ASM/height 2`=筋肉の量を身長の二乗で割った値)。同じ土台に並べたものではありません。
2. 入口のふるい分けの行について。 これは入口でふるい分けるための線であり、当てはまったらサルコペニアという線ではありません。点数の線(4点以上/11点以上)は AWGS 2019 側に書かれているものです。
3. 歩行速度の行について。 EWGSOP2 は、簡便さのために、この0.8 m/s以下という一つの線を、重症のサルコペニアを示すものとしても助言しています。そして重症と呼ばれるのは、筋力の低下・筋肉の量または質の低下・身体機能の低下の三つがすべて検出されたときだと書かれています。
そのうえで、この表が言っていることを受け取ってください。筋肉の量の線は、男性では両方とも同じ値で、女性でも 5.5 と 5.4 です。大きく割れているのは、女性の握力と、歩行速度の二箇所だけになります。
「数値が違う」と聞くと、二つの基準が別々に作られて、張り合っているように見えます。ですが、原典に書かれているのは、別のことです。 EWGSOP2 の全文には、こうあります。
The cut-off points in the Asian consensus proved to be very useful for implementation of recommended sarcopenia care. Thus, EWGSOP2 has opted to provide recommendations for cut-off points for different parameters to increase harmonisation of sarcopenia studies
アジアの合意文書の線は、推奨されるサルコペニアのケアを実施するうえで、非常に有用であることが示された。そこで EWGSOP2 は、サルコペニア研究の調和を高めるために、さまざまな項目について線の推奨を示すことにした。
つまり欧州の側は、アジアの基準の線が役に立ったことを理由に挙げて、揃えるために自分たちの数値を出したと書いています(`to increase harmonisation`=調和を高めるため)。どちらが正しいかを争ったという記述ではありません。
ただし、なぜ握力と歩行速度の二箇所だけ線の位置が違うのかは、私が読んだ範囲には書かれていません。
同じ検査が、置かれている欄が違う
ここからは、数値よりも置き場所の話です。
EWGSOP2 の側を見ます。椅子からの立ち上がりは、筋力の欄にあります。線を示した表の見出しは `cut-off points for low strength by chair stand and grip strength`——筋力の低下についての線を、椅子からの立ち上がりと握力で示すという書き方です。そして本文にも、筋力の低下(`low muscle strength`)を見つけるために、握力と椅子からの立ち上がりを使うよう助言すると書かれています。表と本文の二箇所で一致しています。線は、5回立ち上がって15秒超です。
AWGS 2019 の側では、同じ検査が別の欄にあります。身体機能の低下(`low physical performance`)についての基準として、6メートル歩行、SPPB(Short Physical Performance Battery)、そして椅子から5回立ち上がる検査の三つが挙がっています。線は、5回で12秒以上です。
同じ「椅子から5回立ち上がる」という検査が、一方では筋力の欄に、もう一方では身体機能の欄に置かれています。
なぜそうなっているのかは、私が読んだ範囲には書かれていません。 どちらの置き方が妥当なのかも、この記事では論じません。確認できるのは、置かれている欄が違うという事実だけです。
そして、この置き場所は、固定されたものでもありません。
AWGS は2025年に、合意文書の更新を出しています(Nat Aging 誌・2025年11月)。第1著者と最終著者は2019年版と同じ人で、ほかにも両方に名を連ねている研究者がいます。別のグループが別の基準を出したのではなく、同じグループが自分たちの基準を更新したということです。更新の全体は、`a life-course approach to muscle health promotion`(筋肉の健康を促すことへの、生涯を通じた取り組み)という枠で、サルコペニアへの対応をとらえ直すものだとされています。
抄録には三つの要点が挙げられていて、その二つ目が、ここに関わります。
simplifying the diagnostic algorithm to require only concurrent low muscle mass and strength, with physical performance as an outcome measure
診断の手順を簡素化し、筋肉の量の低下と筋力の低下が同時にあることだけを求め、身体機能をアウトカム(結果)の指標とする。つまり、身体機能は、診断の構成要素から、結果を見るための指標のほうへ移っています。
椅子から5回立ち上がる検査は、2019年版では、その身体機能の基準の一つとして挙がっていたものです。ただし2025年版の抄録には、個々の検査の名前も、線の数値も出てきません。この検査が2025年版でどう扱われているかは、抄録からは分かりません。
言えるのはここまでです。同じグループが6年のあいだに、身体機能という欄そのものの位置を動かした。 欄がどこにあるかは、基準の側でも動いています。
国をまたぐと割れるのは、名前だけではありませんでした。今回は名前が同じで、割れていたのは線の位置と、検査の置き場所です。基準の中の、同じ一つの動作が、二つの違う役をしています。
そして私は、この動作を測るためには使っていません。何に使っているかは、この記事の最後に書きます。
基準の入口と、私が最初に見るところ
AWGS 2019 は、入口を用意しています。地域と病院で別の手順を示していて、どちらも、ふくらはぎの周囲の長さ/SARC-F/SARC-CalF のいずれかでのふるい分けから始まります。 その理由として、サルコペニアの危険がある人を、より早く見つけられるようにするため(`to facilitate earlier identification of people at risk for sarcopenia`)だと書かれています。
EWGSOP2 の側も、入口に質問票を置いています。サルコペニアの可能性が高い人(probable sarcopenia)を見つけるために、SARC-F の使用を助言すると書かれています。ふくらはぎの周囲の長さについては、私が読んだ範囲には出てきません。「無い」と断定できるほど全文を読み切っていないので、そこまでにします。
ここで、自分の手元の話をします。道具を持たずに訪問して、最初に何を見ているか。
見た目でわかるのは、ふくらはぎ・足が一番わかりやすいかなという感じがします。
あとは異常動作。立ち上がりの際の下肢の支持性がなくなってきた。介助する側の力が必要になった。
そういったことが、筋力が低下してきたと感じる最初のところかもしれません。
「わかりやすいかなという感じがします」「かもしれません」という言い方のまま置きます。言い切れるものではないからです。
道具を持たない私が最初に目で見るところと、国際的な合意が入口に選んだところが、同じでした。 これは、基準を持ってきて自分を権威づける話ではありません。向きは逆です。基準が私を正しいと言っているのではなく、たまたま同じところを見ていた、というだけです。
ただし、私は目で見ています。測っていません。 だから私が見ているものは、入口のふるい分けに置かれた線とは、別のものです。
もう一つ。介助する側の力が必要になった——これに当たる項目は、私が読んだ二つの基準の中には出てきません。測っているのが、道具ではなく、施術者自身の体だからです。数値にはならず、前回との差としてしか残りません。
基準が測るのは一時点である
二つの基準が示しているのは、どれも線です。何kg、何m/s、何秒。繰り返し測って前回と比べる方法については、私が読んだ範囲には出てきません。基準が一時点しか見ていない、とまでは言えませんが、私が確認できたのは線のほうだけです。
そして、訪問で繰り返し会っていると、線とは別のものが見えます。
毎日や1週間おきに体を見ていると、徐々に起き上がる動作が遅くなってきた、寝返り動作ができなくなってきた、立ち上がる動作ができなくなってきたとわかっていきます。
特に立ち上がり動作が難しくなってきたときに、本人が頑張ろうとせず、やめてしまうことがあります。
その動作をしなくなった瞬間から、急激に筋力は落ちていきます。
ここは私の見立てです。使わないことで筋力が落ちるという現象について、本記事では一次資料を確認できていません。 二つの基準の論文にも、この話は書かれていません。私が繰り返し会う中で、そう感じてきたという話です。
順序についても同じです。起き上がりが遅くなる、寝返りができなくなる、立ち上がれなくなる——私が見てきた順序はこうでした。誰でもこの順に進む、という一般化はできません。
線は、その日に測れます。やめた、という変化は、繰り返し会っていないと分かりません。
繰り返し会うことを前提にすると、施術者の側が自分に期限を切る必要が出てきます。確かめ終えるのに自分で期限を切っているという話は、別に書きました(→ カイロプラクティックは効果ない?4回で方針を変える理由)。あの4回は、変化が出る回数ではありません。確かめ終える回数です。そして症状によっても変わります。この記事の基準として「4回」を持ち出しているわけではありません。
手を貸してもらえる状況が続くと
やめてしまう理由を、人に置かないでおきます。
痛みがあったり、できないと思ってしまったりすると、手を貸してもらえる状況が続きます。その状況が続くと、その動作をしなくなることがあります。 そして、その状況のほうには、別の事情があります。
時間もない中で介護をしている人たちはやっていますので、そういった能力を引き出すといった時間をとってあげられないことが現状となります。
これは、誰かの努力が足りないという話ではありません。時間がどう配られているかという話です。
そして、病院の外で早く気づくことは、基準の側も想定しています。AWGS 2019 の文章です。
Although skeletal muscle strength and mass are both still considered fundamental to a definitive clinical diagnosis, AWGS 2019 also introduces “possible sarcopenia,” defined by either low muscle strength or low physical performance only, specifically for use in primary health care or community-based health promotion, to enable earlier lifestyle interventions.
筋力と筋肉の量はどちらも確定診断に欠かせないとしたうえで、AWGS 2019 は「possible sarcopenia」を新たに置いた。筋力の低下、または身体機能の低下のみで定義されるもので、プライマリ・ヘルスケアや地域の健康増進での使用を特に想定しており、生活のうえでの働きかけを早く始められるようにするためだとされている。
ここでの `possible sarcopenia`(サルコペニアの可能性がある)は、EWGSOP2 の `probable sarcopenia`(サルコペニアの可能性が高い)とは定義が違います。前の章の表のとおりです。そして `lifestyle interventions` は「生活のうえでの働きかけ」までで、中身は書かれていません。
病院の外で早く気づくことを、基準の側もはっきり想定しているということです。ただし、だから施術者が判定してよい、という話にはなりません。判断するのは医療機関です。
こんなときは、医療機関へ
この記事は線を載せました。ただ、線は、自分に当てて安心するためのものではありません。
次のような場合は、様子を見ずに医療機関へ相談してください。
- 体重が減ってきている
- 転ぶことが増えた/転んだあとの痛みが続く
- 急に動けなくなった、立てなくなった
- 食事が入らない、飲み込みにくい
- 発熱がある、安静にしていても痛みが続く
これらは「サルコペニアの症状」としてここに並べたものではありません。本記事の線で判断するものではなく、医療機関で確かめるものです。
そして、線に当てはまらなかったことは、受診しなくていい理由にはなりません。
三つ目の役
まず、どこまでできるかを見る
訪問の場面で、私が最初にしていることです。
その患者さんに追加できるところ、もっと引き延ばせそうだなというところを見極めて促してあげるといったことです。
ここで私が見ているのは、線ではありません。前回この人がどこまでできたか、です。
何kg、何秒という線は、この場面では使っていません。基準の仕事は別のところにあります。使えないという話ではなく、この場面で手に持っているものが違う、という話です。
条件は、回数ではない
先に、条件のほうを書きます。
良いパフォーマンスができず、崩れてきてしまったらフォームが正しくないため、効率の良い練習ができません。
なのでしっかりと立ち上がることができる回数でやることが大事です。
そのうえで、実際の場面はこうなります。
立ち上がりの動作ができる人に関しては、立ち上がる動作を10回繰り返す。
立ち上がれない方に関しては、立ち上がれるような動作手順を教えてあげるといった形で、体の持っている力を引き出していきます。
条件は回数ではありません。崩れずに立ち上がれる範囲です。 そして、立ち上がれない人に対しては、回数の話ではなく、やり方の話に切り替わります。
同じ椅子からの立ち上がりが、一方の基準では筋力の欄にあり、もう一方では身体機能の欄にあり、私の手元では引き出すための動作になっています。同じ一つの動作が、三つの場所で三つの役をしています。
施術者が「体を動かす機会が要る」と書けば、自分の仕事を勧めていることになります。そう読まれても仕方がない立場です。だからこの記事は、回数も頻度も勧めていません。書いたのは、崩れない範囲という条件だけです。
体調が良くないときには歩行動作の確認を行わず、身体的なケアだけにとどめる——という判断については、別に書きました(→ 訪問マッサージは違法なのか?同意書が支える仕組み)。「やらない」という判断が先にあるのは、ここでも同じです。
まとめ
- サルコペニアは、筋肉の量が減り、そこに筋力の低下および/または身体機能の低下が加わった状態を指す言葉です(AWGS 2019 の定義)。EWGSOP2 は、これを筋肉の病気として位置づけています。
- 国際的な基準は、アジアと欧州に二つあります。 2019年版と欧州版を並べると、同じ三つのもの(筋力・筋肉の量と質・身体機能)を見ていて、線の位置が違うのは二箇所だけです。
- 同じ「椅子から5回立ち上がる」という検査が、一方では筋力の欄に、もう一方では身体機能の欄に置かれています。
- 二つの関係について、EWGSOP2 はアジアの基準の線が役に立ったことを挙げて、揃えるために自分たちの線を示したと書いています。そしてアジア側は2025年に更新を出し、身体機能という欄そのものを、結果を見るための指標のほうへ移しました。張り合っているのではなく、置き場所は基準の側でも動いています。
- 私はその同じ動作を、測るためには使っていません。条件は回数ではなく、崩れない範囲です。
- サルコペニアかどうかを判断するのは医療機関です。 この記事の線を、自分や家族に当てて結論を出さないでください。
やめた瞬間から落ちていく、と書きました。ただ、そう書いたぶんだけ、問いが自分に返ってきます。使わないことで、何がどれだけ落ちるのか。落ちたものは、どこまで戻るのか。線を二つ並べておきながら、ここには並べられる線がありません。私はここで答えを持っていません。持っていないまま、毎週その部屋に入っています。
よくある質問
Q1. サルコペニアは高齢者だけの病気ですか?
EWGSOP2 は、「高齢の成人に多いが、人生のより早い時期に起こることもある」(原文 `can also occur earlier in life`)と書いています。高齢の人だけに起こる、とは書かれていません。
Q2. ふくらはぎを測れば分かりますか?
AWGS 2019 は、ふくらはぎの周囲の長さを入口のふるい分けに置いています。当てはまったらサルコペニア、という線ではありません。確定は医療機関で確かめます。なお私は目で見ているだけで、測っていません。
Q3. 基準が二つあるのは、どちらが正しいのですか?
どちらが正しいかを述べた資料を、私は確認していません。確認できるのは、二つの合意文書があり、線の位置が二箇所違うことだけです。EWGSOP2 は、アジアの基準の線が役に立ったことを挙げ、揃えるために線を示したと書いています。
Q4. 「サルコペニアの可能性がある」と言われました。診断されたということですか?
二つの基準に、それぞれ別の語があり、定義が違います。EWGSOP2 の `probable sarcopenia`(可能性が高い)は筋力の低下が見つかった時点、AWGS 2019 の `possible sarcopenia`(可能性がある)は筋力の低下または身体機能の低下のみで定義されます。どちらの枠の話なのかは、言った人に確かめるしかありません。確定については医療機関で確かめてください。
Q5. 立ち上がる運動を家でやらせてもいいですか?
私が現場でとっている条件は、回数ではありません。崩れずに立ち上がれる範囲です。フォームが崩れてきたら、そこで止めます。この条件は、何かの効果を約束するものではありません。痛みがあるとき、転びやすいとき、持病があるときは、医療機関や、かかっている専門職に確かめてほしいと思います。
参考文献
1. Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. PMID: 32033882
2. Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31. PMID: 30312372
3. Chen LK, Hsiao FY, Akishita M, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025;5(11):2164-2175. PMID: 41188603
本記事の位置づけ
- 本記事は、国際的な合意文書に書かれている基準の内容と、執筆者が繰り返し会う中で見てきたことの記述です。読んだ人が自分や家族を判定するためのものではありません。
- サルコペニアかどうかを判断するのは医療機関です。
- 「その動作をしなくなった瞬間から、急激に筋力は落ちていきます」は執筆者の見立てであり、それを裏づける研究は本記事では確認していません。
- 本文の「崩れずに立ち上がれる範囲」は執筆者自身が現場でとっている条件であり、効果を保証するものでも、読んだ人が実施すべき方法を示すものでもありません。
- 本記事が開いたのは、AWGS の2019年版と、EWGSOP2、そしてAWGS 2025年版の抄録です。2025年版の線の数値は抄録に書かれていないため、本記事では扱っていません。表に並べた線は、2019年版と EWGSOP2 のものです。
- 基準は改定されます。情報確認日:2026年10月2日
- 気になる症状がある場合は、医療機関へご相談ください。
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