前回、鍼灸師はやめとけ?現役はり師が語る唯一無二の価値 という記事で、ひとつの統計を紹介した。はり師もきゅう師も柔道整復師も、この10年で就業者数を伸ばしているのに、あん摩マッサージ指圧師(あマ指)だけがほぼ横ばい、施術所の数にいたっては減っている、という統計だ。そのとき私は「これには、あん摩マッサージ指圧師という資格だけが背負っている、法律上の事情がある」と書いて、話を次回に持ち越した。今回はその宿題に答える記事になる。
結論から言う。「あん摩マッサージ指圧師はやめとけ」と言われる背景には、根性論でも技術の限界でもなく、法律そのものが養成校の新設や定員増を止められる、という他のどの国家資格にもない事情がある。 そしてその法律の目的は、視覚に障害のあるあマ指師の生計を守ることにある。
数字だけ振り返っておく。厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、令和4年から令和6年の2年間で、はり師は+4.0%、きゅう師は+4.1%、柔道整復師は+1.3%と就業者数を伸ばしている。ところがあん摩マッサージ指圧師は+0.7%とほぼ横ばいで、あん摩・マッサージ・指圧を行う施術所にいたっては2.7%の純減だった(詳しい数字は前回の記事に載せている)。3資格とも同じ養成課程でまとめて取れることが多いのに、なぜここまで差がつくのか。
先にお断りしておくと、この記事では年収や学費といった「お金」の話は扱わない。 理由は前回書いたとおりで、公的な統計にはあん摩マッサージ指圧師だけを切り出した平均年収が存在しないためだ(日本標準職業分類では柔道整復師などと同じ区分にまとめられている)。出所をたどれない数字を並べても役に立たないので、お金の話は別の記事で改めて扱う。この記事が扱うのは、そもそもこの資格の入り口がなぜこれほど狭いのか、という話だ。
あん摩マッサージ指圧師とは、手技によるあん摩・マッサージ・指圧の施術を行う国家資格だ。柔道整復師(骨折・脱臼・打撲・捻挫などの急性のケガに対応する国家資格)やはり師・きゅう師と並んで、「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(昭和22年法律第217号、以下あはき法)で定められている。この記事では、あはき法の条文と、全国の地方厚生局が公表している養成施設の一覧、そして私自身の進路選びの実体験をもとに、なぜこの資格の入り口がこれほど狭いのか、そしてそれでも取る意味がどこにあるのかを整理する。
養成校の数は、法律で決められている
いきなり条文を出す。あはき法の附則第十九条には、こう書かれている。
第十九条 当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。
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2 文部科学大臣又は厚生労働大臣は、前項の規定により認定又は承認をしない処分をしようとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。
条文をそのまま読むと難しいので、隣人にも分かる言葉に置き換えたい。要するにこういうことだ。
- 国は、あマ指師全体や養成施設の生徒のうち「視覚障害者以外の者」の割合などを見て、
- 視覚に障害のあるあマ指師の生計維持が難しくなりそうだと判断したときは、
- 視覚障害者以外を対象とする(=晴眼者向けの)養成校の「新設の認定」だけでなく、「定員を増やす承認」もしないことができる
新設が止められるだけでも影響は大きいが、この条文が本当に効いてくるのは「定員の増加」まで対象になっている点だ。すでにある学校が生徒を増やそうとしても、法律上、それが認められないことがある。附則というのは、法律の本則の後ろに置かれる経過的な規定のことで、「当分の間」という言葉が示すとおり、恒久ルールというより、時限的な調整措置として位置づけられている。ただし、この条文が制定されて以降、実際にはずっと効力を持ち続けている。
処分をしようとするときは、あらかじめ医道審議会(厚生労働大臣の諮問に応じて医療関係者の資格や行政処分などを審議する専門家会議)の意見を聴く手続きが必要になる、という慎重な建て付けにもなっている。
この条文の目的は、あくまで「視覚障害者であるあマ指師の生計の維持」だ。視覚に障害のある方々にとって、あん摩・マッサージ・指圧という仕事は歴史的に重要な職域であり続けてきた。この制度は、その職域を守るために置かれている。ここを「既得権益」といった調子で語るのは筋違いだと私は思う。制度の目的は目的として、まずそのまま受け止めたい。
そのうえで、この条文が実際に何を意味するかというと――あマ指の資格を、視覚に障害のない人(晴眼者)が目指そうとしたとき、通える範囲に学校があるかどうかは、他の資格以上に「運」に左右される、ということだ。私自身が通ったのも、盲学校ではない、晴眼者向けの養成施設だった。クラスに視覚障害のある同級生は一人もいなかった。まさにこの条文が「新設・定員増を止めることができる」と名指ししている、その課程に通っていたことになる。
条文を読んだだけでは、この影響がどれほどの大きさなのか実感がわかない。そこで、実際に全国の養成施設がどれだけあるのか、数えてみることにした。
全国にどれくらいあるのか。厚生局の一覧を数えてみた
あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の養成施設は、都道府県ごとではなく、全国8つのブロックを受け持つ地方厚生局・厚生支局(厚生労働省の地方支分部局。四国は中国四国厚生局の下に置かれた四国厚生支局が担当している)が一覧を公表している。私はこの8ブロックすべての一覧ページ・PDFを自分で開き、あマ指の資格が取れる養成施設(あマ指単独、またははり師・きゅう師とあわせて取れるもの)を数えた。二次情報や引用サイトは使わず、各厚生局の一次情報だけを見ている。
結論から言うと、北海道と中国地方5県(鳥取・島根・岡山・広島・山口)は、あはき養成施設の一覧そのものが公表ページに見当たらなかった。 そのため、以下の数字は「確認できた範囲」であり、「全国で何校」と断定できるものではない、という前提で読んでほしい。
ブロック別の内訳
| 地方厚生局 | 管内 | 3資格が取れる養成施設数 | 内訳(都道府県) | 基準日 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 北海道 | 一覧未公表 | ― | ― |
| 東北 | 青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島 | 1 | 宮城1 | 令和6年4月 |
| 関東信越 | 茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・山梨・長野 | 11 | 東京6・神奈川3・埼玉2 | 令和8年4月1日 |
| 東海北陸 | 富山・石川・岐阜・静岡・愛知・三重 | 3 | 愛知2・静岡1 | R7.4.1 |
| 近畿 | 福井・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山 | 5 | 京都2・大阪2・兵庫1 | 令和8年度 |
| 中国四国(中国地方分) | 鳥取・島根・岡山・広島・山口 | 一覧未公表 | ― | ― |
| 四国 | 徳島・香川・愛媛・高知 | 1 | 香川1 | R8.4.1 |
| 九州 | 福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄 | 2 | 福岡1・鹿児島1 | 2025年1月更新(ページ更新日) |
確認できた合計は23施設(北海道1道と中国地方5県を除く、41都府県分の集計)。この23施設のうち、東京都だけで6施設を占めている。確認できた施設全体の4分の1が、一つの都に集まっている計算だ。
この表を読むときに、必ず押さえておいてほしい注意点が2つある。
- 基準日がブロックごとにバラバラであること。令和6年4月・令和7年4月1日・令和8年度・令和8年4月1日・2025年1月更新と、公表のタイミングが揃っていない。とくに東北ブロックだけ、他のブロックより約2年古い基準日のデータになっている。これらを横並びで足し合わせた数字である、という前提つきの合計だ。
- 視覚障害者以外を対象とする「新設・定員増を止められる」課程かどうかは、施設の名称からは完全には判別できない。 「国立障害者リハビリテーションセンター」「京都府立視力障害者福祉センター」「神戸視力障害センター」「福岡視力障害センター」の4施設は、名称から視覚障害者を主な対象とする施設だと推定できるが、これは名称による推定にすぎない。したがって「晴眼者が通えるのは19校」といった断定はできない。
千葉県にすら1校もない
確認できた23施設の内訳を都道府県単位で見ると、施設があるのは12都府県だけだった。
設置がある12都府県:宮城1/東京6/神奈川3/埼玉2/静岡1/愛知2/京都2/大阪2/兵庫1/香川1/福岡1/鹿児島1
設置ゼロが確認できた29県:青森・岩手・秋田・山形・福島/茨城・栃木・群馬・千葉・新潟・山梨・長野/富山・石川・岐阜・三重/福井・滋賀・奈良・和歌山/徳島・愛媛・高知/佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・沖縄
首都圏の一角である千葉県にすら、あマ指が取れる養成施設は1校もない。九州・沖縄の8県で見ても、確認できたのは福岡と鹿児島の2施設だけで、しかも福岡の1施設は視覚障害者を主な対象とする国立の施設(福岡視力障害センター)と推定される。つまり九州・沖縄で、晴眼者が通える可能性のある施設は、実質的にさらに絞られる。
「あマ指単独」で取れる学校は、さらに少ない
もうひとつ、見落としてはいけないデータがある。ここまでの表は「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の3資格をまとめて取れる養成施設」の数だ。では、あマ指だけを取れる養成施設はどうか。
各厚生局の一覧は、3資格をまとめて取れる課程と、あマ指だけの課程を分けて掲載している。あマ指単独の課程を全ブロックで拾い直すと、こうなった。
| 地方厚生局 | あマ指単独の養成施設 | 内訳 |
|---|---|---|
| 関東信越 | 2 | 東京都2(総本山長生寺付属 長生学園、日本指圧専門学校) |
| 東海北陸 | 1 | 愛知県1(専門学校名古屋鍼灸学校 あん摩マッサージ指圧科) |
| 近畿 | 2 | 京都府2(京都府立視力障害者福祉センター、京都仏眼鍼灸理療専門学校) |
| 東北・四国・九州 | 0 | 各一覧に該当区分の掲載なし、または空欄 |
| 北海道・中国地方 | ― | 一覧未公表 |
確認できた範囲で、あマ指単独の養成施設は5施設・3都府県だけだった。3資格をまとめて取れる養成施設が23施設あるのと比べると、あマ指だけを目指す道は、さらに狭い。しかも東京・京都・愛知の3都府県に限られている。
これは進路を考えるうえで重要な意味を持つ。あマ指だけを取りたいと考えても、そもそも選べる学校がほとんどない。 結果として、あマ指を目指す人の多くは、はり師・きゅう師とあわせて3資格を取る課程を選ぶことになる。
開校年でみると、令和はゼロだった
もう一つ、この記事の目玉になるデータがある。各施設がいつ認定を受けたかを、関東信越(11施設)と近畿(5施設)の一覧から集計した。合計16施設の内訳は次のとおりだ。
| 認定年度 | 施設数 |
|---|---|
| 昭和(S23〜S63) | 13 |
| 平成(H7・H14・H21) | 3 |
| 令和 | 0 |
16施設のうち13施設が昭和に認定を受けており、平成は3施設、令和はゼロだった。関東信越の内訳を見ると、最も古いものは昭和23年(国立障害者リハビリテーションセンター)、最も新しいものは平成21年(大宮呉竹医療専門学校)で、それ以降の新設は確認できなかった。近畿も同様に、昭和26〜35年に集中し、平成7年を最後に更新がない。
ここは慎重に書きたい。「認定年度が古いのは附則19条のせいだ」と、この記事では断定しない。 附則19条が実際にどの申請に対して、いつ、どう適用されたかという個別の記録までは追えていないからだ。ただ、「視覚障害者以外を対象とする養成施設の新設・定員増を止めることができる」という条文と、「新設が平成半ば以降ほとんど確認できない」という年表を並べて見せることには、意味があると思う。判断は読者に委ねたい。
「通える範囲は2校」――私自身の実体験
数字の話ばかりだと実感がわかないと思うので、私自身の話をする。
私が卒業したのは、東京呉竹医療専門学校(学校法人呉竹学園)だ。この記事でここまで見てきた一覧に、認定年度 昭和35年として載っている学校のひとつになる。つまり私自身が、附則19条のもとで数が増えないまま残ってきた養成施設の、その椅子のひとつに座っていたことになる。
あマ指の資格を取ろうと学校を探していたとき、自分が通える範囲だと2校くらいしかなかった。日本全国を見渡せばもっとあるのだろうが、実際に通学できる距離となると、ぐっと狭まる。しかもこれは、私が首都圏にいたから2校あった、という話でもある。住んでいる地域によっては本当に限られていて、1校もしくは1校もない、ちょっと頑張って行かなきゃいけないくらい遠いところになってしまう。やはり都心部に集中しているので、地方に住んでらっしゃる方はちょっと選択肢が少ないというのが、実感としてある。
この実感は、今回集計した数字とそのまま重なる。千葉に1校もない。九州・沖縄8県で2施設。地方に住む人にとって、あマ指という資格は「目指そうと思えばいつでも目指せる」ものではなく、「そもそも通える学校が近くにあるかどうか」という、進路選び以前の条件に左右される資格になっている。
では、なぜ資格を目指す人自体も少ないのか
養成校が少ない理由を条文と数字で見てきたが、需要側、つまり「そもそもこの資格を目指す人が少ないのではないか」という側面についても、私の見立てを書いておきたい。
これはあくまで私の見立てであって、統計で裏づけられた話ではない。私が感じているのは、リラクゼーションのマッサージや整体といった形で、国家資格がなくても近いサービスを提供できてしまっている実態があるため、わざわざ3年かけてあマ指の国家資格を取ろうと考える人自体が少ないのではないか、ということだ。
私自身が通っていた養成施設は盲学校ではなかったので、視覚障害のある同級生は一人もいなかった。それでもクラス全体の人数を思い返すと、決して多いとは言えなかった。附則19条が定員の伸びを止めている面もあるだろうが、そもそも「入ろうと思う人」自体が、他の資格と比べて多くない、という感覚がある。
なぜそう感じるのか。次の項で、法律上の建前と、実際に街で見かける施術の実態のずれを見ていきたい。
厚生省の通知に見る、建前と実態のずれ
ここが、この記事でいちばん伝えたいところだ。
街を歩けば「整体」「リラクゼーション」を掲げた店を数多く見かける。こうした業態のなかには、国家資格を持たずに営業しているところも少なくない。ここで一度、法律の建前を確認しておきたい。あはき法第1条は、こう定めている。
医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許を受けなければならない。
条文だけを読めば、あん摩・マッサージ・指圧を業として行うには免許が必要、というのが法律の建前だ。この建前を裏づける行政の解釈が、昭和35年3月30日付の厚生省医務局長通知(医発第247号の1)に残っている。この通知は、いわゆる無届の医業類似行為業(療術行為業)をめぐる当時の最高裁判所の判決を受けて、各都道府県知事に宛てて出されたものだ。通知はこう述べている。
この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものであるから、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復を無免許で業として行なえば、その事実をもってあん摩師等法第一条及び第十四条第一号の規定により処罰の対象となるものであると解されること。従って、無免許あん摩師等の取締りの方針は、従来どおりであること。
つまりこの通知が示しているのは、「療術行為業一般については、人の健康に害を及ぼすおそれがあると認定されて初めて処罰の対象になる」とした最高裁判決の限定的な解釈は、あん摩・はり・きゅう・柔道整復には及ばない、ということだ。厚生省は、あん摩を無免許で業として行えば、その事実だけで処罰の対象になる、と明確に解している。
行政の建前としては、これがずっと変わっていない立場になる。ただし、私はここで「無資格でもマッサージができる」とは書かない。 法律上は免許が必要というのが建前であり、それは今も変わっていないからだ。
私がここで指摘したいのは、その建前と、実際に街で目にする光景との間に、乖離があるように見える、ということだ。「整体」「リラクゼーション」として営業されているサービスの多くは、それが法律上の「あん摩・マッサージ・指圧」に当たらない、という整理のもとで提供されている。この建前と実態の間のずれこそが、あマ指という国家資格の値打ちを、外から見えにくくしている一因ではないかと、私は考えている。
特定の店舗や事業者を名指しして批判するつもりはない。それぞれの業態が、それぞれの整理のもとで営業している。ただ、進路を考える人には、この構造そのものを知っておいてほしい。入り口は法律で狭められ、出口では資格の値打ちが外から見えにくい。 これが、私が「あん摩マッサージ指圧師はやめとけ」と言われる背景として捉えている、ふたつの事情だ。
それでも、この資格を取る意味はどこにあるか
ここまで、狭い入り口と、見えにくい値打ちという、厳しい現実を並べてきた。それでも私は、この資格を取る意味がなくなったとは思っていない。
理由は単純で、国家資格でなければ法律上できないこと、法律上入れない領域が、はっきり存在するからだ。たとえば、医師の同意を得て健康保険を使いながら自宅や施設に伺う「訪問マッサージ」は、あん摩マッサージ指圧師免許を持つ者でなければ担えない仕事だ。病院や介護施設、リハビリテーションの現場、スポーツチームのメディカルスタッフといった、医療・福祉の枠組みのなかで施術に関わる仕事も、国家資格という法律上の裏づけがあってはじめて選択肢に入ってくる。整体・リラクゼーションとして提供されている施術がどれだけ広がっても、こうした領域には制度上入っていけない。
もうひとつ、資格を持つことの意味は「信頼の裏づけ」にもある。国が定めた教育課程を修め、国家試験に合格した者だけが名乗れる資格である以上、患者や利用者に対して示せる裏づけの重みが違う。これは効果を保証する話ではなく、どういう教育を受け、どういう法律上の位置づけにある人間が施術しているかを、相手にはっきり示せるという意味での価値だ。
養成校が少なく、通える範囲に学校がないかもしれない。それでも、そこを乗り越えて資格を取った人には、資格がなければ立てない場所に立てる、という現実がある。「やめとけ」と言われる理由を認めたうえで、それでも私は、この資格を選ぶ意味は今も残っていると考えている。
なお、治療家として実際にどれくらいの収入が見込めるのかという話、そしてなぜ柔道整復師の施術だけ健康保険が使えるのか(受領委任という仕組みの話)、国家資格と民間資格の線引きをどう考えればいいのかについては、それぞれ別の記事で改めて詳しく取り上げる予定でいる。
資格取得を検討している人へ――まず確認してほしい3つのこと
ここまで読んで、それでもあマ指を目指したいと思った人に向けて、進路を考えるうえで最初にやってほしいことを整理しておく。
1. 自分の生活圏から通える範囲に、養成施設があるかを地方厚生局の一覧で確認する。 「〇〇県 あん摩マッサージ指圧師 学校」といった検索だけでは、専門学校の広告ページばかりが上位に出てきて、実際に厚生労働大臣・文部科学大臣の認定を受けた施設かどうかが分かりにくいことがある。管轄の地方厚生局が公表している一覧(この記事の参考文献に各ブロックのURLを載せている)を直接見て、施設名・設置者・課程・修業年限・入学定員を確認するのが確実だ。
2. あマ指単独の課程か、はり師・きゅう師とあわせて取る3資格課程かを、募集要項で確認する。 今回の集計では、あマ指単独で取れる養成施設は、確認できた範囲で5施設・3都府県(東京・京都・愛知)だけだった。3資格まとめて取れる課程のほうが選択肢は多いが、その分、修業年限中に学ぶ内容も増える。どちらを目指すかで、志望校の絞り込み方が変わってくる。
3. 通学が難しい場合は、進学のために転居や下宿が必要になることも視野に入れておく。 施設が都市部に集中している以上、地方に住んでいる人にとっては、通学可能な範囲に学校がないケースが十分にありうる。進路を検討する早い段階で、この現実的な制約に向き合っておいたほうがいい。
よくある質問(FAQ)
Q. あん摩マッサージ指圧師の養成施設は、全国に何校ありますか?
地方厚生局が公表している一覧のうち、確認できた範囲では、41都府県で23施設でした(北海道・中国地方5県は一覧が公表されておらず未確認)。基準日がブロックごとに異なるため、あくまで「確認できた範囲での目安」として捉えてください。
Q. あん摩マッサージ指圧師の学校は、視覚障害者しか入学できないのですか?
そうではありません。晴眼者(視覚に障害のない人)が入学できる養成施設も存在します。ただし、あはき法附則19条により、視覚障害者以外を対象とする課程については、新設の認定や定員増の承認が制限される場合があります。
Q. あん摩マッサージ指圧師とはり師・きゅう師は、同じ学校でまとめて取れますか?
学校によります。今回確認した範囲では、あマ指単独の養成施設よりも、あマ指・はり師・きゅう師の3資格をまとめて取れる養成施設のほうが多く見つかりました。志望校を検討する際は、募集要項でどの資格が取得できる課程かを必ず確認してください。
Q. 資格がなくてもマッサージのような施術は受けられますか?
法律上は、あん摩・マッサージ・指圧を業として行うには国家資格が必要というのが建前です。一方で、「整体」「リラクゼーション」として提供されている施術も広く存在し、その多くは法律上の「あん摩・マッサージ・指圧」には当たらない、という整理のもとで運営されています。この建前と実態の間には、ずれがあるというのが実情です。
Q. あん摩マッサージ指圧師の国家試験の難易度は高いですか?
本記事では難易度そのものは扱っていません。まずは通学できる範囲に養成施設があるかどうかを確認したうえで、各養成施設の募集要項や過去の合格率などを直接調べることをおすすめします。
本記事の位置づけ
本記事は、あん摩マッサージ指圧師という資格・制度について、法令と公表統計に基づいて整理する目的で作成したものであり、特定の症状の診断・治療を目的としたものではありません。
視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計維持を目的とした附則19条の制度趣旨については、条文に基づき中立に説明することを心がけました。特定の学校・団体・業態への批判や推薦、序列づけを意図するものではありません。
制度・統計は執筆時点(2026年9月2日確認)の公表情報に基づきます。法令・地方厚生局の公表一覧・養成校の募集要項は改定・更新されることがあるため、進路選択など重要な判断をする際は、必ず最新の一次情報(厚生労働省・各地方厚生局・各養成校等)をご確認ください。
参考文献・出典
- あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)附則第十九条|e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000217
- 厚生省医務局長通知「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」(昭和35年3月30日 医発第247号の1):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta1075&dataType=1&pageNo=1
- 東北厚生局「あん摩マッサージ指圧師はり師きゅう師養成施設一覧」(令和6年4月現在):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/000374319.pdf
- 関東信越厚生局「令和8年度 養成施設一覧」(令和8年4月1日現在):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/amashi_ahaki_2026.pdf
- 東海北陸厚生局「あん摩マッサージ指圧師はり師きゅう師養成施設一覧」(R7.4.1現在):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/000413640.pdf
- 近畿厚生局「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師養成施設一覧」(令和8年度・3資格課程):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000407181.pdf
- 近畿厚生局「あん摩マッサージ指圧師養成施設一覧」(令和8年度・あマ指単独課程):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000407180.pdf
- 四国厚生支局「あん摩マッサージ師、はり師及びきゅう師養成施設一覧」(R8.4.1現在):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/shikoku/000433440.pdf
- 九州厚生局「あん摩マッサージ指圧師はり師きゅう師養成施設一覧」(ページ更新日 2025年1月17日):https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/kenko_fukushi/ichiran10.html
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/
執筆者
山﨑駿(やまざき しゅん) あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師(すべて国家資格)/Doctor of Chiropractic(D.C.、Tokyo College of Chiropractic・CCEA認可課程)/オステオパシー(D.O.課程)専攻中。臨床歴12年、のべ数万人の身体に向き合ってきた施術者です。
【学歴】日本工学院八王子専門学校 柔道整復科 卒業/東京呉竹医療専門学校 鍼灸あん摩マッサージ指圧科 卒業/東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧RMITカイロプラクティック学科日本校)卒業/日本福祉大学 通信教育部 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科 卒業/スティル・ジャパン・アカデミー(オステオパシー専門教育)在学中。
保有資格の詳細は運営者プロフィールをご覧ください。
